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中学校から日進駅を越えて坂を上ったところにゲーム屋が新しくできたので、ちょっと家からは遠いけれど遊びに行って店内をウロウロしていたら、ゲームソフトが並んだ棚越しに男と目が合ったのだった。男は白いタオルを頭に巻いていて、なんで頭にタオル巻いてんだろー、とボケーと見ていたら男の目つきが一瞬鋭くなって、どこかへ行ってしまった。
嫌な予感がした。おそらく高校生。だから、危ない気がする。帰らなきゃ。とドキドキしてひっそりと店内を歩いていたら、案の定、白いタオルを巻いた男が、仲間を3人連れて目の前に立ちはだかった。

白いタオルを巻いた男は、手に桃の天然水のペットボトルを持っていて、もう片方の手のひらにそれをパンパンと打ちつけていた。よくわからないが、威嚇的な意味を持っている行為なのだろうと思った。
「お前さっき見てただろ」
「え…?や、見てないです…?」
漫画とかで見たことあるような台詞に、精一杯のそんなこと言われるなんて思いもよらない風で返した。少し高音の声で入るのがそういうかんじが出るような気がして、そうした。
「見てただろ」
「や、見てないです」
「金出せ」

こうなる。どんなやり取りをしようが結果金出せ、となる。この飛躍には納得いかないが、反論をする発想はない。緊張と脱力感が同時にくる。
ふと桃の天然水をパンパンやっている男の後ろを見ると、長髪に切れ長の目の男がこちらを睨んでいる。その男はポケットに手を突っ込んでいたが、そのポケットの一部分が鋭く隆起しており、何か突起物が入っている様相である。
ナイフ。あるいはポケットの中で指を突き立てているのだろうか。はたまた陰茎か。
指を突き立てているだけならそれが唯一のセーフケースだが、3分の1の可能性に賭けるにはリスクが大きすぎる。
「えー、や、ないですよ~お金~」
本当に大したお金を持っていないし、だからこそなけなしのお金を払うなんて本当に嫌で、そういう意味では嘘偽りない状況を、おどけた表情で敵意がないことを示しつつ伝える。こんなことで大事なお小遣いをみすみす失いたくない。
「出せ」
「え~(困ったなあ)」
「早く、300円でいいから」

要求は300円である。ここで僕は300円でいいの?と思ってしまう。300円ならまあ…と思ってしまう。
「早くしろ」
「300円か~あるかな~」
300円なら、ある。それはわかっていたけど、お金はないと言った手前、先程の自分と辻褄を合わせるため、300円もあるか怪しいといった、本当にお金がないやつを演じる。
「早く、早くしろ」
桃の天然水は焦っている。回りを伺い、この状況が人目につくのを恐れている様子である。
小銭を探りながら「あれ?こういう状況不慣れなのかな?」という気持ちがよぎる。財布の中からようやく100円玉2枚を見つける。「早くしろって」天然水が急かす。「初犯?」という言葉が頭を巡る。一方後ろの陰茎の男は堂々としたものである。この堂々っぷり、この男は相当の悪なのだと思う。ポケットは相変わらず突起している。
3枚目の100円玉は一向に見つからず、1000円札を出してお釣りをもらうことは可能なのか尋ねるべきか否かを考え出したとき、50円玉が2枚あることを発見した。
よかった。これでちょうどで払える。
先程まで桃の天然水にパンパンされていた手のひらに100円玉を2枚と、心の中で(細かくなっちゃいますけど)とつぶやいて1枚目の50円玉を乗せた瞬間、桃の天然水が踵を返す。よもや50円玉がくるとは思っていなかっため、300円を徴収し終えたたつもりになっているらしい。
慌てて2枚目の50円玉を取り出して手を伸ばす。
逃げ出すように天然水が走り出す。陰茎も後に続く。
その背中に「あ、まだ250円っ…!」と小さく叫ぶ。
桃の天然水が見えなくなる。

心の中で「得した」と思う。すぐさま「得はしてねーよ!」と思い直す。
自転車に乗って家まで帰る。




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プロフィール
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男性
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自己紹介:
浅井浩介


■次回公演■
わっしょいハウス
「スポット」
2014年7月29日(火)~8月3日(日)
@北品川フリースペース楽間

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